【前回の記事を読む】死を受け入れない娘に制裁。死ぬはずではなかった「同じ名前のばあさま」の命を閻魔に差し出していたことが発覚して…

鬼の夜ばなし3 新説大江山鬼退治の顛末(『御伽草子』より)

時は平安中期、いつの頃からか夜な夜な都に出没する鬼の集団があった。頭目の名は酒呑童子(しゅてんどうじ)という。

金品強奪、女子どもの人攫(ひとさら)い、抵抗する者は有無を言わさず殺害し、さらにあたり一帯打ち壊して去るという。この者どもの消えた後は、まるで大災害に遭ったような酷いありさまだった。都の検非違使(けびいし)でさえも歯が立たず、やりたい放題の輩(やから)であった。

討伐を命じられたのは源頼光(みなもとのよりみつ)と藤原保昌(ふじわらのやすまさ)のふたり。

頼光は配下として渡辺綱(わたなべのつな)、坂田金時(さかたのきんとき)、碓井貞光(うすいさだみつ)、卜部季武(うらべのすえたけ)の四人を従え、鬼の根城の大江山へ向かった。この四人が世にいう源頼光四天王であった。

一行は修験者を装い甘言を弄(ろう)し、まんまと酒呑童子の館に招き入れられることに成功した。そして酒宴の最中酔いつぶれた鬼どもを成敗し、頭目酒呑童子の首級(くび)を持ち帰った。これが語り継がれている大江山の鬼退治であった。のだが……。

「頼光さま、本当にこれでよろしかったのでしょうか」

「案ずることはない金時よ、これが誰にとっても最善だ」

「しかし、このことが公になると貴方さまは」

「綱よ、だからこそ、この人数で参ったのだ。保昌殿もわしと同じ心境であったから 従者も特に信用のおける者ただひとりとしたのだ」

「保昌殿から漏れ伝わることはないとおおせですか」

返事はなかったが、頼光の鋭い眼光は少しも揺るがなかった。

「よいか、今度のことは民草(たみくさ)が噂していることのほうがずっと真実に近い。どんなに取り繕ってみても、はなから無理のある討伐だったのだ」

都ではこんなことが噂されていた。

「おいおい、またなんか夜中に騒ぎがあったらしいじゃないか」

「三軒隣の家に鬼どもが押し入ったらしいぞ」

「家のもんは皆殺(や)られたってぇ話なんだが」

「へえっ、あそこに誰か住んでたのかい? 人の出入りなんて見たことなかったが」

「そもそも鬼どもなんてのを、お前見たことあるかい」

「いやわしはないけど、酒呑童子ってぇのがお頭だっていうんだが、いちいち名乗って回ったのかね」

「なんとも怪しい話だなこりゃあ」

この派手な凶行は夜陰に乗じて行われ、また逃げ足も早く、鬼どもの仕業といわれているが、その姿を見た者は誰もいなかった。