無残にも鬼どもに殺害された亡骸がいくつも転がっていたともいうが、早々に片付けられ、これまた被害者が誰だったのかまるでわからない。もともと押し入られた屋敷は、常日頃住んでいる者がはっきりしないものばかりだったのだ。
「怪しいのはお役人たちじゃないのかい? お偉いさんたちが何かよくねえこと企んで、その目くらましってぇことじゃねえのか」
こうした噂が日に日にじわじわ都中で囁かれるようになっていたのだ。
同じ頃、検非違使の詰所の片隅で耳にしたことに、金時は疑念を持っていた。
話し声は上級役人であった。
「今夜は東河原だったな。手筈は?」「あいつらに任せておけば抜かりない」
その夜、酒呑童子と手下が暴れ回ったのは東河原だった。
先頭に保昌と塩漬けの酒呑童子の首級を背負った保昌の従者、少し遅れて続く頼光たち七人は修験者のなりのまま帰路を急いでいた。都の入り口ははるか先だったから、まだ気軽なやりとりが交わされていた。
「これが酒呑童子の首級とは、ちと無理があるのではありませぬか」
「いや、こう派手に手傷を負うておれば、誰も猪とはわかるまい」
「それに鬼の首を検分するのは検非違使の長官くらいだ。証拠の牙はちゃんとある。案ずることはない。筋書きも整っておるしな」
これは金時が仕留めた猪だった。朝廷の面々を欺(あざむ)こうというのだから手抜かりは許されないのだが、やんごとなき貴人たちは穢(けが)れを嫌い、近づくことさえしない。一部の役人が鬼と判断すればそれで済む。
「いや、わたしならもうちょっと、それらしくしたものを」従者はまだ納得のいかない様子だった。
その何年も前、時の権力者に領地を奪われた豪族の生き残りが大江山に逃れていた。
ところがその山里の奥は貴重な金銀が眠る地だった。そのお宝を独占しようとする〈とある者〉の暗躍により、豪族は都で悪逆非道の限りを尽くす集団とされ、討伐の指令が下されてしまったのだった。
頼光は、鬼どもの正体を質(たち)の悪い河原者たちであると突き止めていた。
この豪族は領地を朝廷側との戦に敗れた折、潔く差し出していた。にもかかわらず、次に移り住むよう強制された先に思わぬお宝が眠っていたばかりに、いわれなき罪を負わされ、口封じの討伐隊を差し向けられたのだ。残っていたのは老人と女子どもばかりであったというのに。
頼光はそのやり口にどうにも我慢がならなかった。
「いったいどちらが鬼なのか」
そうして、大江山に住まう鬼とされた者たちを、別の場所へ人知れず移動させたのだった。