【前回記事を読む】「わたしはおじさんに育てられたんです」、「じゃあ、そのおじさんと二人暮らし?」彼女は顔を明るくして、おどけながら答えた…
1 医学祭
「でも、もし水餃子になったら、みきの腕前を披露するのに最適よねぇ」
今度は真琴が嬉しそうに言う。
「ええ~。先輩。わたし、料理は自信ありませぇ~ん!」
「え? だってみき、さっき、わたしもお手伝いできます!って、自信ありげに言ってたじゃない?」
「あれは、つい成り行きで……」
みきは声を落として弁解した。
「じゃあ調理は誰がするのよぉ~」
真琴は呆れた様子でみきを見る。
「うちの部で医療栄養学科といえば……ええっと、高知さんと松井さんくらい?」
フットサル部は少ない部員の中でも、ほとんどが看護学部のメンバーだ。医学部はいないし、看護学部が七、栄養学部が三くらいの割合だった。
「ねぇ? 外部の人を助っ人で雇うっていうのは?」
真琴はみきに提案した。
「外部の人って、プロの調理師ってことですか?」
「いや。それは無理でしょ。もちろん学生よ。でも、プロ並みに料理が得意な子だったらどう? 割合からいったら、チア部もほとんど看護学部だろうし。自炊している子もいるかもしれないけど、だからって、家で餃子とか作りそうになくない?」
「そうですね」
「みき、家で餃子作る?」
「う~ん、一度、作ったことがある、かな?」
みきですらそうなのだ。
「多分作るとなったら、百個、二百個じゃきかないよぉ。よっぽど手際がよくないと」
真琴も結構大変なことだと思い始めていた。
「だからさ、一人ね、サークルには入っていないんだけど、家庭料理が得意な子を知っているんだよねぇ」
真琴は秘密兵器を持っているとでも言いたそうな顔をした。
「ええ~? 誰です? それは」
みきは飛びついてきた。
自信があると言っておきながら、みきも成り行きでつい言ってしまったことだった。
「看護学部二年の篠原あずみって子、知らない?」
「篠原……あずみ、さん?」
みきにははじめて聞く名前だった。
「うん。その子が適任だと思うの」
真琴の提案にみきは〝へぇ〟という顔をした。
そろそろみきの家の近くまできた。
このあたりは屋敷町で大きい家が多い。その分、敷地が広く、道路幅も広い。車を家のすぐ前で停めることができた。
「はい、到着」
二階建てで、かなり大きい洋風建築だ。庭も広いみたいだ。家の壁には蔦が這っているところもあって、真琴は昔読んだ『秘密の花園』の世界を連想した。
「みきのおじさんはどんなお仕事なの?」
みきが車から降りるときに、つい聞いてしまった。
「え?」
「いや、ごめん。別に詮索しようってわけじゃないけど、海外にいるってことだったから……」
「ああ、うちのおじさんは」
みきが車の窓から顔を覗かせて言った。
「船に乗っているんです」
「へぇ、そう」
だから海外生活が多いのか。これまで真琴は、みき以外誰も家人を見かけたことはなかった。