「あ、その篠原さんってお友達の人、先輩から打診しておいてくださいねぇ~」

みきは最後に明るく言った。

「うん。任せて」

みきに言われて、真琴は次の指令が下ったような気持ちになる。

そうだ。あずみに言わなきゃ。

みきの家を離れて数分後には、真琴は下町の一軒の家に向かって車を方向転換していた。

 

あずみの家は、街の中心部に程近い住宅街にある。市役所や税務署が建ち並ぶメインストリートを抜けると、地元では大きな老舗デパートが見えてくる。デパートを中心にして、駅に向かってアーケードが続いているのだが、そのアーケードが途切れたところが住宅街だった。

いわゆる新興住宅地ではなく、昔からの住民が多く、あずみの家も、両親がこの町に移り住んできたときに建てた一軒家だった。古い住宅街なので道幅は狭い。それでも、庭先には車一台分の駐車場が確保されていて、あずみの義兄の車が駐車してあった。

あずみの義兄は出勤には車を利用しない。アーケードの反対側に警察署があり、そこが義兄の勤務先なので、いつも彼は徒歩で出勤すると言っていた。だから車が停めてあるだけでは、家にいるかどうかは分からない。

あずみの義兄は刑事だった。

両親はあずみが中学のときに事故で亡くなっている。義兄の配偶者、つまりあずみの実姉も、三年前病気で亡くなった。

現在、あずみと義兄は二人暮らしだ。ただ、義兄はあずみより二十も年上なので、義兄が親代わりのようなものだった。

真琴は家の前の通りに車を停めると時計を見た。午後六時四十分である。帰宅部のあずみは、四時限目の講義が終わるとすぐに帰宅したはずだから、家にいる時間帯だ。買い物も済ませて、夕食の準備をしている頃だと思う。

「こんにちはぁ~」

呼び鈴を鳴らすと同時に、真琴は玄関の外から声をかけた。

「はぁ~い」

あずみの声がした。

「ごめ~ん。ちょっと寄っちゃった」

玄関のドアが開くと、エプロン姿のあずみが出てきた。手には布巾を持っており、いかにも料理中ですという格好だった。

「ごめんね、突然。ちょっと話があるの。いい?」

真琴はいいかと尋ねながらも、上がる気満々である。

「うん、いいけど」

「明日でもよかったんだけど、ちょうど家に帰る途中であずみのところに寄ったほうが早いと思って」

嘘だ。みきの家から真琴の家まで、街中を通らないでも帰れる一直線だ。それをわざわざ回り道をしてやってきたのだ。

 

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