「それは、そうだけど……」

紗英は部員たちを見回す。自分たち三年ですら、真琴に反対意見を言えるような豪傑はいない。

「だから! 今年こそ食べ物に挑戦したらいいと思うんです!」

二年生の櫻井真琴は突然、医学祭での出し物を、今年は食べ物でいこうと言い出したのだ。紗英は、う~んと唸った。面倒はごめんだった。

夏季休暇も終わり、今日は新学期になって初顔合わせの日だった。約一か月半後には、ここM医科大学の医学祭がある。

M医科大学には、医学部、看護学部、医療栄養学部の三学部があり、医療系らしく学園祭を「医学祭」と呼んでいる。

医学祭では各サークルが出し物をすることになっており、フットサル部に入っている真琴はそのミーティングで、突如食べ物系がやってみたいと言い出したのだ。

「真琴、分かってる? 食べ物の模擬店っていっても、食材の調達とか、調理とか、すっごい大変なんだから! バスケ部やテニス部なんかとは規模が違うの。あっちは人数もたくさんいるし、毎回食べ物系が出せるけど、うちはほら、この人数じゃない?」

フットサルは、まだ一般的にはメジャーではない。そんなサークルだから、最低限競技ができるくらいの人数しかいない。

部員だって、四年生はいなくて、三年生までしかいない。だから、何チームも結成できるメジャーなバスケ部やテニス部に比べれば、出し物は少ない人数でできるものに限られるため、毎年ゲームに落ち着いていたのだ。

「それならどうですか? うちとチア部あたりが合同でするっていうのは?」

真琴も負けてはいない。一年生のうちはさすがにおとなしかったが、二年生になるとそれなりに意見を言うようになった。それがまたサマになっている。

部長の紗英も、ときどき言い負かされそうになる。みんなの心の中には「あの」サクライホールディングスのお嬢様だから仕方がないという気持ちがあり、誰も意見を言わない。しかし、紗英も今日は負けてはいなかった。