【前回記事を読む】学園祭前、M医科大学フットサル部員たちは出し物について議論していた。「学園祭といったら、絶対食べ物でしょう!」

1 医学祭

バッチリメイクのみきの顔は練習でひと汗かいたのに、ちっともメイクが崩れていない。紗英はどんなファンデーションを使っているのだろうと一瞬思った。

「じゃあ、みきも賛成ってことでいいの?」

紗英はため息交じりでみきに聞いた。

「はい! わたしも賛成です!」

「そう……」

真琴のほうを見ると、賛成意見を言ったみきにウインクをしている。そういえば、最近、真琴のそばにみきがじゃれついているのをよく見かける。二人は気が合うみたいだ。

「じゃあ、あらためてわたしからチア部の雨宮さんと話してみる。それまでは真琴はノータッチでいいからね」

紗英は、これでなんとか引き下がってくれないかと思った。

「はぁ~い! 先輩。交渉よろしくお願いします!」

真琴は笑顔だ。真琴の策略に乗せられてしまったか?

いまさらチア部が断るはずはないと思っている。

「じゃあ、話し合いは終わり! 次回の練習の欠席者はわたしまで報告のこと! 解散!」

紗英は大きな声を張り上げて、みんなを見回した。部員たちはそれぞれ体育館を出ていく。その後ろ姿を見て、紗英は誰からも真琴への反対意見は出なかったと思った。しかも、賛成意見まで出てしまった。よりにもよって一年生から……。

「紗英部長」

名前を呼ばれて振り向く。

立花みきだ。

赤いTシャツが眩しい。

「すみません。わたし、余計なこと言いましたか?」

伏せた目のまつ毛が長い。形状記憶並みの強力なエクステだ。普通の付けまつ毛をどれだけ盛ってもこうはならない。

「あの……出し物のことです」

「え? ああ……」

紗英は我に返った。

「いや、いいよ。真琴の意見も一理ある。うちの部はいつもゲームなんかで誤魔化してさ。せっかくの医学祭につまんない店番で終わるのもそろそろ限界かなって思ってはいたんだ」

思ってはいたが、自分の代で面倒を起こすつもりはなかった。それは、後輩たちの役目だと思っていたが、黙っていた。