「それよりさ……」
体育館の鍵を閉めて、事務棟に向かう道すがら、紗英は話題を変えて野々花に聞いた。
「今日のみきの格好、見た?」
「ああ、そうだね。今日もすごかったね」
野々花は体育館の鍵を宙に投げながら歩き続けている。
「赤と緑って、よく合わせられるなぁと思うよ。でも、みきだから許せちゃうんだけど」
紗英はうなずきながら言う。
「赤と緑って、信号機かよ」
野々花がつぶやいた。紗英は思わず吹き出す。
確かに、これに黄色があれば信号機だ。
みきは、ひと際目立つ服装だった。赤いTシャツに緑のスウェット。しかも蛍光色だ。
ところが、そんな信号機のようなコントラストでも、不思議とダサくはない。
「しかもさ……」
鍵をもてあそぶのをやめた野々花が続ける。
「あの子ってメイクバッチリで、あれだけ練習したあとでも、全然崩れていないじゃない?」
「そうそう。毎回不思議なのよねぇ」
「あの二つにまとめたお団子だって、最後まで乱れてなかったよ」
野々花もしっかりチェックしていた。
女子大生は噂話が大好きだ。噂話で間を持たせていれば、自分のことを話さなくて済むと思っている。
「今日の髪型はお団子だった?」
紗英が首をかしげる。
「うん、そうよ。二つにまとめてきれいに結ってあった。きっと今日のテーマは、C-POP風」
「は? 何? C-POP風って?」
「え? C-POPって知らない? C-POPって中国アイドルグループのことよ。今はもうK-POPの時代じゃないのよ」
「あ、そうなの?」
K-POPが韓国アイドルグループで、C-POPが中国アイドルグループか。それなら、みきは常に時代の最先端を行っているということか。
👉『詐術人間~看護学生あずみの事件簿 3~』連載記事一覧はこちら
【イチオシ記事】「もしもし、ある夫婦を別れさせて欲しいの」寝取っても寝取っても、奪えないのなら、と電話をかけた先は…
【注目記事】トイレから泣き声が聞こえて…ドアを開けたら、親友が裸で泣いていた。あの三人はもういなかった。服は遠くに投げ捨ててあった