【前回記事を読む】「今日のみきの格好、見た?」「赤と緑って、信号機かよ」…それでも彼女は不思議とダサくなかった。

1 医学祭

紗英と野々花は、みきのファッションチェックをするのが、部活後のお約束だった。それほどみきのいでたちは目立つ。いわゆるおしゃれと言ってもいいが、その度合いがハンパではないのだ。

ここⅯ医科大学では奇抜な格好をする学生は少ない。医学部は白衣だし、看護学部も医療栄養学部も、実習などがある手前、実用重視で地味な服装が多い。

その中で、みきはひと際目立った。とにかく派手好きで、ファッションに対してこだわりがあった。こだわりと一言で言ってしまえばそれまでだが、あたりを歩いている一般の学生が容易に理解できないくらいのこだわりなのだ。 

一度として同じ服装を見たことがない。しかもスタイリングがバラエティーに富んでいる。派手さは同じだが、〇〇風というようにテーマを決めて、毎回違ったおしゃれを楽しんでいるようだ。そのいでたちゆえ学内でもたちまち有名になり、みきは密かに「歩く洋服ダンス」とまで言われていた。

「でも、みきが賛成派に回るなんてねぇ。最近、櫻井さんと仲がいいと思っていたのは本当だったか」

野々花がうなずきながら言った。

「そうよねぇ。あの二人って何か共通点ある?」

「共通点ねぇ」

野々花が考えながらつぶやく。

「みきも、真琴の家のことを知っていて、くっついているのかなぁ?」

紗英は「真琴の家のこと」と小声で言ったときに、周りには二人しかいないのに、あたりを憚る様子を見せた。

「家のことねぇ」

野々花が意味ありげに笑う。

「みきは一年だし、まだよく知らないんじゃないの?」

「そうだよね。知っていたらあんなに気安く近づけないじゃない? 年上のわたしたちだって遠慮しているのに……」

紗英は、自分がそうだから野々花も同じだろうと思っている。

「あら、わたしは遠慮していないわよ」

事務室に鍵を返し、部室に戻る頃になって、野々花が反論してきた。

「何? 何のこと?」

紗英はとぼける。

「だから、さっきの櫻井さんのこと……」

野々花が正面を向いたまま答える。

その割に、苗字にさんづけじゃないか? それが遠慮している証拠でしょ?

紗英はそう思ったが、黙っていた。