そもそもフットサル部に三年は二人しかいない。部長の紗英と副部長の野々花だけだ。
二人は中学のときからつるんでいて、大学に入って野々花がフットサル部を立ち上げると、紗英を部長に据えた。
本来なら野々花がやるべきなのだが、立ち上げた本人が部長になると職権乱用になるとかなんとか言って、紗英が部長になったのだ。
どっちにしろ、なってみれば部長と副部長にたいした違いはなかった。することと言えば、部のミーティングの進行役をするだけ。トレーニングや練習の準備や片づけも野々花と一緒だった。
「また、チア部と合同っていうのが、ニクイじゃないの」
事務室に鍵を返して、二人は部室に戻ってきた。あとは部室の戸締りをして帰るだけだ。
「そうよねぇ」
紗英は部室の鍵を閉めながらうなずいた。
「じゃあ、チア部と役割分担を話し合って決めなくちゃならないってこと?」
紗英は少し面倒くさいなと思った。
「そりゃそうでしょ。話を振っておきながら、共同でするんだったら、役割もすべてこちらが率先して相手に提案しなくちゃならないよね」
「提案ねぇ……」
部室を離れて、車を停めてある駐車場に向かう。二人とも実家から車で通っていた。
「しっかたないなぁ!」
しばらく歩いて野々花が叫んだ。
「わたしがチア部と話をつけるわ! 紗英は、決まったらみんなに決定したことを話せばいいよ」
紗英の暗い顔が一気に晴れた。
「ありがとう! 野々花に任せたら安心だわ」
「またそれ……」
野々花はため息をつく。
紗英は、自分は野々花の傘下だとも思っている―。
👉『詐術人間~看護学生あずみの事件簿 3~』連載記事一覧はこちら
【イチオシ記事】折角着た服はゆっくり脱がされ、力無く床に落ち互いの瞳に溺れた――私たちは溶ける様にベッドに沈んだ
【注目記事】「ええやん、妊娠せえへんから」…初めての経験は、生理中に終わった。――彼は茶道部室に私を連れ込み、中から鍵を閉め…