【前回の記事を読む】「よかったら一緒に飲みませんか?」 谷口純司と名乗る背の高い建築士の男、まさしくそれは理想の人だった――
アザレアに喝采を
Ⅱ 恋の歓び
初めてのデートはゴールデンウィークの最終日、夜食事に行く約束をしていた。その日は朝から何を着ていくかを考えに考え抜いた。
「まず好感度は大事。でも無難過ぎなくて、そうかといって華美でもなくて、私らしくお洒落で、けど攻めすぎはだめでしょ……う〜ん、困った。どれにしよう」
栞は散々迷って、オーガンジーの白色のブラウスに、膝丈のフレアスカートを合わせた。フレアスカートは柿色で、オレンジ色ほど強い色味ではなく、少し柔らかい印象になるのが初めてのデートにはふさわしいだろうと思って選んだ。
栞の髪はクセのないサラサラのロングヘアだ。いつもよりうんと丁寧にホットカーラーを巻いてふんわりさせたいから、その間に入念にメイクをする。
栞はメイクをする時間が好きで面倒だと思ったことは一度もない。鏡に映る自分の顔をじっと見つめる。
きめが細かくてシミもくすみもない肌は、薄っすらとファンデーションをのせるだけで透明感が出て、一段と明るい肌に仕上がる。
眉は女性らしい丸みを帯びたアーチ形に描いて整える。栞は元々目が大きくてチャームポイントだが、アイメイクは濃い印象にならないようにアイラインは入れずに、いつもアイシャドウだけで陰影をつける。
その代わり丁寧にビューラーを使ってまつ毛をカールさせてから、マスカラはたっぷりとつける。こうするだけで十分に魅惑的な目元になる。リップはグロスを塗らずに落ち着いたマットな感じに仕上げるのが最近のお気に入りだ。
ピアスは「開けると人生が変わる」と聞くから、なんだか怖くて開けていない。だから今日は大ぶりのイヤリングではなく、アクアマリンの小粒なイヤリングで耳たぶを飾った。
「あぁ、やっぱりこのイヤリング可愛いわ。うん、これでよし」
これから始まる恋に胸をときめかせながら身支度を整えることは、至福の喜びだった。
「どう? まぁまぁよね」
ドレッサーの鏡に映る今日の自分に頷いた。