【前回の記事を読む】仕事の話を真剣に語る彼の横顔に見惚れる栞。「やっぱりこの人で間違いない」だが二人の会話はいまだによそよそしさがあり…

アザレアに喝采を

Ⅱ 恋の歓び

四人とも「Bravo(ブラボー)」は初めてだった。早くから予約しておいたためか、広い店内の一番奥にあるゆったりとしたテーブル席に案内された。

栞は美香の彼にはもう何度か会っていたから、今日のこのメンバーだと全員をよく知る自分が場を取り仕切る役割だろうと考えていた。さて、料理のオーダーはどうすればいいのだろうかと思っていると、

「この店は、アラカルトメニューだけのようですね。評判の石窯焼きのピザを二種類とサラダをまずオーダーしましょうか。やっぱり本場の生ハムを使ったものが旨いでしょうね、真鯛のアクアパッツアなんかも良さそうだ」

谷口が皆の好みを上手に聞きだして、ソツなく注文を終えた。

「店に入っただけでニンニクとオリーブオイルのいい香りがしますね。だから、きっと何を頼んでもちゃんとしたものが出てくると思うよ」

美香の彼も食通のような口ぶりだ。乾杯をしてビールを一口飲むと谷口がさっそく口を開く。

「今夜は栞ちゃんだけじゃなくて、美香さんからもお叱りを受けることになるのかなぁって、これでもドキドキして来てるんですよ、本当に忙しい、もう、そればっかり言ってますからね。今日は仕事中もなんだか落ち着かなくって、一日中ソワソワしてました」

谷口はそんな冗談さえ言って、美香を笑わせた。

「え〜、嫌だわ。谷口さんったら。お叱りだなんて、私そんなに怖くありませんから! でもね〜谷口さんって本当に栞の理想のタイプどんぴしゃり!の人なんです。こういう人がタイプ、こういう人と結婚したい、って散々聞いていたそのまんまの人だったから私も驚いちゃったくらい。だからホント栞は良かったなぁ、って思ってるの。まぁ、確かに忙しくてなかなか会えないことは寂しいんでしょうけど、ね〜栞ちゃん!」

美香も谷口に気さくに話しかけて、和やかな雰囲気で食事が始まった。谷口は美香の彼とも、ほかのイタリア料理店の話やゴルフの話を始め、話題は自然に広がっていった。

竣工したばかりの高層分譲マンションに話が及ぶと、わずか一杯のビールのせいか、谷口はいつになく饒舌になった。