【前回の記事を読む】イタリア料理店で同僚の美香とのダブルデート。嫌がられると思っていたがすんなりと彼は受け入れ…
アザレアに喝采を
Ⅱ 恋の歓び
谷口と出会ってから半年以上が経ち、拒食症は随分良くなっていた。食べ物のことばかり考えることはすっかりなくなったお陰で、以前のように食事で困ることはもうなかった。
何を着てもぶかぶかとして不健康そうに見られていたのに、体重も増えて生理も戻った。これから先の結婚や出産を考えると、過激なダイエットが原因で子供が授からないのだとしたら後悔してもしきれないだろう。だから生理が戻ったことは大きな安心材料となった。
今ではもう一般的な「スリム」という程度の印象になっていた。拒食症が良くなったことも、健康な身体に戻りつつあることも、谷口に出会えたからだ。
夢見ていた理想のタイプそのままの人が現れたから、ダイエットなんて何の意味もないのに頑張り過ぎていただけだと気づけて、アッと言う間に元気になれた。それは栞にとっては「奇跡」で、谷口は「運命の人」に思えるのだった。
だから絶対にこの恋を実らせたい、結婚するまで頑張らなきゃ。
ダイエットの次はこの恋を成就させて谷口と結婚することに、栞はいつしか必死になっていた。ダイエットのための行き過ぎた我慢や頑張りが、拒食症を招いたのと同じ理屈で、何かに本気で向かうとストイックになり過ぎることが、栞自身の問題の根源であることには気づけないでいた。
やがて二人に初めてのクリスマスが訪れる。
栞はプレゼントにイタリア製のネクタイを用意した。谷口の年齢を考えると、やはりそれなりのものを身に着けてほしいと思ったし、シンプルなデザインのものを選べば、谷口が普段着ているスーツには合わせ易いだろうと考えた。
休日に何軒もデパートを回ってようやく気に入ったものを見つけた。クリスマスプレゼントだからといって仰々しいラッピングは嫌だったから、包装紙とリボンもできる限りシックなものを拘(こだわ)って選んだ。