栞はあまりのことに言葉を失った。初めてのクリスマスなのにいくら何でもひど過ぎる。クリスマスは今や若いカップルのためのお祭りのようで、美香は彼に外資系ホテルのエグゼクティブフロアを予約してもらったと話していたし、当然谷口も何かしらのサプライズを考えていてくれると期待していた。
「今夜は予約で満席です、すみません」
何軒ものレストランで断られた後、谷口はチェーン店の手打ちうどんの店の駐車場に車を停めた。まさかこのチェーン店のうどん屋に入るつもりなのか、と栞は唖然として目を疑った。
けれど、どこも大渋滞が起きている中、ここに辿り着くまでに何軒もの店先で同じようなやりとりをして、断られ続けてきたのだから観念するよりなさそうだ。
「ごめん、今夜は予約なしじゃ、もうこういう店しか無理だよなぁ。ほんと、ごめん」
嫌だと駄々をこねたところでどうしようもないことは分かっていたので、栞は何も言わず助手席からさっさと降りた。
次回更新は5月17日(土)、21時の予定です。
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