どんなレストランを予約してくれたのだろうと期待して、栞はイブのデートのコーディネートにはいつも以上に気を使った。

シルクウールの光沢がある黒色のワンピースに、オフホワイトのフェイクファーのコートを合わせた。コートはAラインでふんわりと裾が広がった女らしいデザインが栞にはよく似合う。

フェイクにしては値が張るものであったが、フェイクファーを堂々と着られるのは若さの特権だと、セレクトショップで買い求めた一点ものだった。

ボリューム感のあるそのコートは華やかな印象になるが、だからこそ合わせるワンピースはシンプルなデザインのシックな黒にした。シルクウールの上質な光沢は、栞をこの上なくエレガントな女性に見せた。

ブルーグレーのサテン生地で作られた華奢なクラッチバッグを差し色に持ったら、クリスマスらしい華やかな装いになった。

海外の流行りのハイブランドのものなら何でもよいから欲しいという欲は栞にはない。本当に自分に似合うもの、自分の好みに合ったものをいつもチョイスした。

ブランドのバッグを持って嬉々とすることは、個性を台無しにする気がした。美香のような女性が持てばバッグも映えるが、若い女性ではハイブランドのバッグに負けてしまうことも多い。釣り合いがとれていないことだって本当はいくらでもあるはずだと栞は思う。

「ほら、今夜の私には断然このバッグがよく似合う」

支度が済んで、ドレッサーの鏡に向かい独り言を呟くことは、すっかり習慣となっている。恋する二十三歳の女性が努力をして綺麗にならないわけがない。

栞は以前にもまして肌の手入れを入念に行い、美容院でヘアケアをし、ナチュラルに魅せる巧みなメイクアップのテクニックを習得して綺麗になる努力を惜しまなかった。

クリスマスイブのこの日の栞には、誰がどう見ても洗練された美しさがあった。今日の装いを谷口もきっと気に入ってくれる、そんな自信があった。

ところが会うなり谷口は、忙しくて店の予約ができなかったと言う。