女性の七割は自分のことを「普通以上に可愛い」と思っていると、テレビで観かけたことをふと栞は思い出した。
「七割の女性が普通より可愛いなんてことあるわけないわよね、どこにそんなにたくさん美人がいるのよ、いないって」
自分のことは棚に上げて独りごちた。
指定された待ち合わせ場所は地下鉄の駅を出てすぐだったが、そこに谷口は白色の外車で現れた。出来過ぎだと思った。
それは栞にとって一番好みの車だったからだ。谷口の車は、どこから見ても愛らしいデザインだ。フランスのメーカーの車で頻繁には見かけないから、余計に独特のフォルムが新鮮に思えて印象に残る。
「ただ大きくて、目立つような車は、鼻につく感じがしてあまり好きじゃないわ。その人の感性に合った拘(こだわ)りのある車を選ぶような人が、理想のタイプだわ」
栞はよくそんなふうに、美香との恋愛談議に花を咲かせていた。
「お待たせしましたか?」
車から降りて来てにっこり微笑む谷口は、休日ということもあってスーツではなく、ぐっと砕けた印象のシャツを着ている。
オフホワイトのシャツは一目でシルクと分かるとろりとした質感と独特の光沢があり、グレーのシンプルなパンツとのコーディネートは、一見ありきたりなようで上級者の着こなしだ。
初対面の時のスーツ姿より、むしろ谷口のセンスの良さが伺えて、栞にはそれがこの恋の吉兆のように思われた。
谷口はサッと助手席側に回り、栞のためにドアを開けた。
「さぁどうぞ、乗って」
理想の人が王子様みたいにこうしてエスコートしてくれる、まるでお伽話のシンデレラになってしまったみたいだわ。