【前回の記事を読む】最近知り合った老舗和菓子屋の3代目社長も気に入っているし、同期入社の彼とはもう終わりにしようかと、二人は恋の話に夢中だった。
アザレアに喝采を
Ⅱ 恋の歓び
「吉田さんは、早稲田卒だった? 高身長、高学歴、高収入の三高(さんこう)をクリアして、安定した生活が送れそうでも、それだけじゃ結婚には踏み切れないわよね」
「そうそう! そこなのよ。この人が運命の人だ! って思える何かが欲しいのよ。私、高望みし過ぎなのかしら」
「そんなことないわよ、誰だって運命の人と出会って結婚したいって思うわよ。妥協して結婚したら後悔するわ」
「そうよね。転勤って理由もあるし、別れ方としては悪くないわよね。妙な噂がたたないように、社内恋愛を穏便に終わらせるってテクニックが必要よね。内緒にしておいてホント正解だった……で、栞はどうなのよ、恋愛のブランク長すぎない?」
何をおいても、どれだけ恵まれた幸せな結婚に辿り着けるかが今の二人にとっては一番の関心事だ。
一九九〇年代になっても女性の結婚適齢期はクリスマスケーキに例えられていて、二十四歳で結婚するのが一番良く、遅くても二十五歳までにはするものという風潮は残っていた。
大学へ進学すると卒業する時点で二十二歳になり、結婚適齢期を考え合わせた時、社会に出て働く期間が短くなるという理由から、栞の通った高校でも短大に進学する女子生徒は少なからずいた。
栞自身もそれに何の疑問も抱くことなく短大へ進学した。女性の幸せは結婚して子供を産むこと、栞にとってはそれが普通の女性の生き方で、別の選択肢があるかもしれないと考えてみたこともなかったからだ。