【前回の記事を読む】『神さまの隣』より詩五篇「足の指先に そっと赤を落とすと 鮮やかな赤は ひんやりとわたしの足先を包む てらてらと輝く わたしの背伸びした足先」

あの頃の憧憬

ネバーランドの記憶

時間のトンネルをぬけて

ネバーランドに着くと 誰もが子どもに戻る

青い海に浮かんだ 若葉の楽園

波間から マーメイドの尾ひれがちらつき

空高く輝くスーパームーンが 子どもたちを見守る

笑い声で満ちたまるい世界

それが一時(いっとき)のことだとわかっていても

心の底から幸せだった

時間のトンネルを もう一度ぬけて

現実の世界と それぞれの生活に戻る

空がみえない ビルの群れが空をさえぎる

直線で成り立つ 今日の世界は

先人がもたらした 叡智の結集だと

誰もが 理解しているはずなのに

人々を支えたのは ネバーランドの記憶だった

あの時代が 今日も人々の拠りどころとなり 世界を動かしている

僕と彼女と世界のきらきら

衝動

あの子の綺麗な伏し目を見たとき

あの子の流れるような日本語を耳にしたとき

あの子のイヤリングがその耳元でちらつくとき

今日も あの子の残り香が僕をかすめる

残酷だ 世界は残酷だ

どの一瞬が 僕を駆り立てるかわからない

どの一瞬が 僕を陥れるかわからない

どの一瞬が 僕に 恋 を教えてくれるかわからない

今日も 僕はあの子を追いかける

世界は 眩しく 美しく 残酷に きらきらと輝く