良子は首を振った。朝私が帰ったあとからも、何度か歩いた、と言った。歩くことはマニュアルでも勧められていた。
良子は立ち上がり、歩き始めた。私とあい子が後に付いた。
朝に比べ、足取りは随分しっかりしていた。そのことを言うと、
「チューブを入れて(腸液を抜き始めて)随分楽になった」と言った。
器材の補助を得ていることは私には不安である。一般的に起こりうることの範疇であることを私は願った。
病室に戻り、
「9日(あさって)の退院は無理やわね」と良子は言った。
「そうだろうなあ。焦らずに我慢するしかないよ。我慢比べや。がんばってよね」
一昨日大阪で医師の姪から、「嘔吐はなかった?」と聞かれた。それは硬膜外麻酔に関してであった。「何もなかった」「そう、それは良かったねえ」ということであった。
帰宅して「入院中の診療計画」表を見ると、5日(おととい)の欄に、「硬膜外麻酔終了」「点滴終了」の文言がある。硬膜外麻酔はおとといまで続いていたのである。
硬膜外麻酔の副作用に吐き気のあることは知っていた。そのことと今回の良子の吐き気は、関係があるのであろうか。
「明日9時半頃に来る」と言って、私たちは病室を出た。
次回更新は4月13日(日)、20時の予定です。
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