良子は自分で起き上がった。そして廊下に出た。

ゆっくり歩いた。私は嘔吐受の皿とティッシュ紙を持って、後ろに付き添った。

10歩ほど歩くたびに、溜め息をついた。

東西病棟の中間点にある椅子に腰を下ろし、しばらく休んだ。

東西病棟を全周するつもりであったが、無理をしない方が良いと思った。

窓外に横浜港の一部が見え、日差しが気持ち良かった。そして部屋に戻った。

1時間余りいて、「夕方、来る」と言って一旦家に帰った。

そしてインターネットで調べた。「日経BP社」のサイトに、『大腸がんを生きるガイド』というのがあった。その「手術の合併症」というページに次の文章がある。

手術後の腸閉塞では、時間の経過とともに症状が自然に改善することが多く、食事を止める、食事の量を減らす、腸の運動を改善させるクスリを飲む、などの対応によって、大抵の場合は治ります。

症状が長く続くようであれば、鼻から腸までチューブを入れて、溜まった腸液やガスなどを抜く治療も行われます。

チューブを入れて腸液を抜いても良くならない場合や、症状を頻繁に繰り返す場合は、腸と腸もしくは腸と腹壁との癒着(くっつき)によって腸管がかなり細くなっている可能性が高く、その場合は手術が必要になることもあります。

「時間の経過とともに症状が自然に改善することが多く」の言葉に、私はわずかに安堵した。そうであってほしい。

16時半にあい子を駅に迎えて、その足で病院へ行った。部屋に入るなり、おっと思った。

良子の鼻にチューブが装着されていた。「症状が長く続くようであれば、鼻から腸までチューブを入れて、溜まった腸液やガスなどを抜く治療も行われます」の段階に入っているのであった。

「歩いたのが悪かったのか?」