【前回の記事を読む】元気な声を期待して「どう?」と声を掛けると、妻はわずかに首を振って「すべて吐いた」と言った。点滴も再び装着されていて…

第四章 2015年(後)

11月8日(日)
我慢

今日は朝から雨で、夜に入ってようやく上がった。

9時半に、あい子と一緒に良子を訪ねた。

鼻のチューブはそのままであった。

明日退院の予定であるが、それは当然無理と思われる。

苦しんでいる訳ではなく、院内散歩も数回行ったという。

そして良子は、「散歩する」と言って立ち上がった。私たちは後ろに続いた。良子が、やせ細ってしまったように見えた。

看護師が点滴液の入れ替えに来た。

「退院は2、3日遅れるでしょう」と言った。

「特別な不都合は発生していませんか?」

「そんなことはないです」

と彼女は、確か、胃や腸の音、と言ったが、正常であると言った。自分は先生でないのでそれ以上のことは言えないが、と。にこやかな顔であった。

「我慢比べだな。焦らず、我慢するしかないよ」

良子はうなずいた。