11月9日(月)
峠を越えた

夕刻6時半にあい子と一緒に良子を訪ねた。病室の、ドアを開けるのが、怖かった。鼻のチューブを着けたままで、青白い顔で横たわっている姿を想像した。胸の動悸は高まっていた。ドアを開けた。

正面に、立って、こっちを向いている笑顔の良子がいた。

わっ、と私は叫んだ。「良かったなあ!」

点滴はまだ続いていたが、重湯の食事は始まっていた。

「オナラは出たか?」

「出た」と言った。

「シャワーもした」と気持ちよさそうに言った。

先生の説明では、「全身麻酔、硬膜外麻酔の影響で、胃腸が眠りから醒めていなかった」ということらしい。

「時間の経過とともに症状が自然に改善することが多く、」という日経BPサイトの解説は、正しかったのである。

「散歩しよう」と良子が言った。

昨日までとはまるで違っていた。背筋がまっすぐ立っている。足取りがしっかりしている。立ち止まって息を継ぐこともない。そしてよくしゃべる。もう大丈夫だ!と私は歓喜した。

部屋に戻った。

「峠は越えたな!」

バンザイをしたかった。

今日の段階では退院の日取りは告げられなかったそうである。いずれにせよ、「2、3日遅れる」という昨日のナースさんの言葉は、正しいと思われる。

「もう、焦ることはないね」

明日同じ時刻に来ると言って、私たちは病室を出た。良子は手を振った。

小雨が降り続いており、しかも生暖かい。湿度が高く、車窓が曇るのでクーラーを動かした。

 

次回更新は4月14日(月)、20時の予定です。

【イチオシ記事】3ヶ月前に失踪した女性は死後数日経っていた――いつ殺害され、いつこの場所に遺棄されたのか?

【注目記事】救急車で運ばれた夫。間違えて開けた携帯には…「会いたい、愛している」

【人気記事】手術二日後に大地震発生。娘と連絡が取れない!病院から約四時間かけて徒歩で娘の通う学校へと向かう