【前回の記事を読む】妻は「散歩する」と言って立ち上がった。私たちは後ろに続いた。妻が、やせ細ってしまったように見えた。
第四章 2015年(後)
11月11日(水)
MRJ飛ぶ
今日は病院で10月分の支払いがあって、3時半に良子を訪ねた。
更に元気になっていた。
明後日退院とのことである。
11月13日、13日の金曜日である。勿論そんなことは今気付いたのである。
支払いは簡単に終わった。
お昼から五分粥になった、と良子は言った。明日は全粥になる、と言った。そして退院である。
「海を見に行こうか」と良子は私を誘った。
「行こう、行こう」
正面玄関を出て外周をぐるっと裏へ回ると、海が見える。
と言っても、東京湾が全貌できるのではなく、港湾設備と首都高速の高架線に囲まれた狭い水面である。浮かぶ水鳥の一群が見えた。
良子は薄手のガウンを着ていた。
寒くはなかった。
曇り日の夕刻で、静かである。
「いつもここへ来ている」と良子は言って、微笑んだ。
良子は常に笑顔を失わなかった。こんなに笑顔の可愛い女であったのだと、改めて思った。沈んだ顔を一度も見せなかった。痛む、とは言ったが、苦しい顔は見せなかった。1時間余りいた。夕食の材料を買いにスーパーへ寄って、帰った。