この10日間(続)
翌日13日の日曜日は、六本木の俳優座劇場で“オペラシアターこんにゃく座”の『魔法の笛』があった。13時の開演で、良子もそれはよく知っており、「お母さんは大丈夫だから、行くように」と、あい子に告げたそうである。そういう女だ。私たちは病院へは、観劇後、夕刻に行くことにした。
“こんにゃく座”を知ったのは、山田百子さんというヴァイオリニストの関係である。彼女が楽士として度々出演していた。なぜ山田百子さんかというと長くなるので省く。こんにゃく座は林光先生たちによって創設されたが、その光先生に山田百子さんは可愛がられていた。そのつながりで彼女は〝こんにゃく座〟と関係を持ったのだと思う。今回も彼女が奏する日を選んで、この日になったのである。
林光先生は「劇団四季」にも関係している。
というよりも光先生のお父様が、浅利慶太氏を初めとする「四季」創設メンバーの応援をしていたようである。光先生ご自身も、「四季」のために作曲している(『思い出を売る男』)。
しかし、林光先生の求めたものは、「劇団四季」とは随分違うと思う。
私は、「四季」によって舞台の面白さに目を開いたので、「四季」には心から感謝している。今も年に数回は観る。
いつ観ても、どのステージも、きっちり仕上がっていることに感心する。それが、あまりに「きっちり」しすぎているのではないか、というのが、最近の私の感想である。いつも同じ絵の出る紙芝居的、と言えようか。
“こんにゃく座”には、「四季」的な観点からすると、少し、いい加減なところがある。その緩さ、仲間的、家族的なところが、私には魅力である。今回の、『魔法の笛』は大変な力作で、十分に満足した。
病院へ良子を訪ねたのは、17時45分頃であった。
良子は横になっており、点滴が打たれていた。
ナースステーション前の個室で、絶好の場所である。個室と言っても東邦大学病院のようにホテル的なものでなく、質素である。シャワールームがあるので、これで十分と言える。
さすがに少し疲れたようであったが、割とよくしゃべった。「本を持ってきてほしい」と言った。
30分ほどした頃、先生が入ってこられた。
サインの欲しいものがあるからと、私とあい子を「面談室」へ誘った。
次回更新は3月28日(金)、20時の予定です。
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