鼠たちのカクメイ

「お主はただのおっさん扱いしておるが、意義殿はあの田沼意次様の御子孫だぞ」

「誰それ?」

そこから教えねばならぬか、と格之助が吐息をつく。

「よし、歴史の講義をしてやろう」

「歴史? どうでもいいよ」

カイは布団の中に逃げ込んだ。さっき聞いたところでは、平八郎先生は丑の刻(午前二時)に起きて自らの鍛錬や研究に励み、六つ半(午前五時)には塾生たちを集めて講義をすると言うではないか。正気の沙汰じゃない。寝かせてほしい。だが格之助は構わず話を続けた。

「田沼意次様は今から五十年ほど前に老中首座として数々の改革を成し遂げられ、見事幕府の財政を立て直された為政者だ。だが後ろ盾の家治公が亡くなると、政敵・松平定信の陰謀で『賄賂政治の張本人』という汚名を着せられて失脚した」

難しい言葉と長ったらしい名前が続くなあ。どうやら歴史ってのはクソほどめんどくさそうだ。聞きながらカイの瞼は落ちかけていたが、格之助は構わず語り続けた。

「だが、私は意次公は立派な方だと思っている。財政を立て直すために海外との貿易も具体的に進めておられたし、町人や農民にも目を配った政をされた」

「でも賄賂もらってたんだろ。じゃ、ダメじゃん」