「遺体の体重が減っていたことも納得できます。久原さんはまともに食事も与えられていなかった」
「そういうことか、この事件の大筋は見えた。しかし重要な点は犯人に語ってもらう必要がありそうだ。明日は約束の日でもある」
そう意味深な表情のまま鳥谷は口髭をなぞった。
八
午前九時、静岡県藤市の藤山には静岡県警の鳥谷元也、深瀬肇、三好和希、横川淳一、栗林智久の五名の姿があった。
鳥谷は全員にビニール傘を手渡し固い表情のまま目線を合わせた。快晴というわけではないが、雨は降っていない。全員が不思議そうな顔をすると鳥谷は腕時計に目を落とす。横川の身につけた香水の匂いが風に乗って周囲に漂った。
「皆さん、本日は年末のお忙しいところご足労をいただきました。しかしこの状況下で皆さんにお伝えしたいことがありまして、お集まりいただきました」
「真波は、真波は見つかったのでしょうか」
お互いを警戒するような仕草をしつつも横川が沈黙を破って鳥谷に詰め寄った。深瀬が横川を静止するように宥めた。その時、横川の顔にポツリと水滴が落ちる。
「皆さん、傘を差してください。三日目にして最大の大雨が来ます」
突如として暗雲が立ち込め、周囲は薄暗くなり雨が降り始めた。だんだんと勢いを増していき、雨量だけではなく粒の大きさが桁違いなのがわかった。
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次回更新は2月25日(火)、21時の予定です。
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