約束のアンブレラ
六
木嶋は一枚の紙を取り上げると声を上げた。木嶋は雫という名前を探しているに違いない。
「この山本雫という少女はどうだ」
「ええ、この家庭には二度聞き込みを行っていますが、この時間は車で外出していたと証言しています。子どもも一緒に家族三人で。ドライブレコーダーの移動記録も確認していますし」
「その発言が虚偽で、子どもを置いて両親だけで行ったということも考えられる。近年はパチンコやスーパーに子どもを残して行く毒親も跡を立たない。宗教絡みでもよくある話だ。それでその家族は十二月三十日にどこに向かっていた?」
「はい、所有する自家用車のドライブレコーダーの記録を調べたのですが。十二月三十日の午前六時に藤湖トンネルを通過しておりまして、藤湖を訪れていたのではないかと」
その言葉を聞くと木嶋は頭をかいた。
「もう一つ。あの藤湖トンネルの先には、十燈荘がある」
「十燈荘といえば高級別荘地ですよね。この山本一家はごく普通の一般家庭です。十燈荘に親戚が住んでいないことも確認しています。そんな人間がなぜ年の瀬に十燈荘へと行くのでしょうか。理由がわかりません」
「知りたくもないな。だがこのデータを見る限り、山本家は頻繁に藤湖トンネルを越えている。何か見たいものでもあるのか。もしくは誰かに会っているのか」
木嶋は意味深な言葉をぶつぶつと告げた。
「久原真波との接点は不明だが、本事件の第一発見者はこの山本雫でほぼ間違いないだろう」