「決して分かり合えることはない。俺たちが相手にしているのは人間ではないのかもしれないな」
「俺だって心の中で考えないようにしていました。久原さんは生きている、どこかで無事だと。そう言霊のように前向きな言葉を並べていましたけど、やっぱり現実は変わらない。言葉に現実を変える力なんてないですよね」
そう深瀬は感情的に言葉を吐き出した。まるで抱え込んでいた鬱憤や葛藤を募らせているように。
「お前はいつも正しい。確かに言葉は脆いし、人の命は儚い。自然の前に立てばその脅威にひれ伏すほどに無力だ。被害が出た後に事後処理するだけの警察も無力かもしれない。だがそれでも俺たちは刑事だ。全ての感覚を極限まで研ぎ澄まし、事実を積み重ねて犯人を逮捕する」
「その先に何が待っているのでしょうか。犯罪者と警察官の終わりのないイタチごっこじゃないですか」
「確かにそうだ。人が人である以上、犯罪というものに終わりはない。だがいつしか犯罪を未然に防ぎ、悪の連鎖を断ち切る時はくる。理想論とお前には笑われるだろうが、俺が成し遂げる」
そういって鳥谷は鋭い眼光を光らせた。その普段見せない表情に深瀬は言葉を飲み込んだ。
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次回更新は2月24日(月)、21時の予定です。
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