「そう言われましても」
捜査員が弱々しい声でいうと、その言葉に木嶋はテーブルをどんと叩いた。
「この事件を解決しなければ連鎖が続く。現場付近に三好もいるかもしれない、連携して捜査を続けろ」
捜査員は一目散に捜査本部を後にした。木嶋の額にはじわりと汗が滲んでいる。
七
時刻は十七時半を回った頃だ。あたりは少しずつ暗くなり再び暗雲が立ち込めている。鳥谷は持っていたビニール傘を見つめていた。それは今朝、猛雨の降る中で鳥谷が手渡した傘だった。
赤いコートの少女は忽然と消え、この傘だけが畳まれて置かれていた。なぜ置いて行く必要があったのだろうか。激しい雨が降っていた、持っていくのが自然だろう。まるで何かのメッセージであるかのように感じた。
「鳥谷さん、科捜研から連絡がありました」深瀬が鳥谷へと足早に駆け寄った。
「被害者の身元がわかったか」
「残念ですが、このご遺体は久原真波さんで間違いありません。遺体から採取した皮膚片と毛髪が、本人のものと一致しました」深瀬は悔しさを滲ませるような表情を浮かべた。
鳥谷も聞くなりその場で手を静かに合わせる。その手は少し震え、眉間には血管が浮き出ている。まるで湧き立つような犯人への強い憤りを感じるもののように見えた。思い描いていたシナリオが最悪の結果になったと二人は感じていた。
「鳥谷さん、俺はわかりません。なぜ久原さんが死ななければならなかったのか。その理由も、犯人の動機だって。聞いたところで納得できるはずがないですよね。これが人間のやる所業ですか」