鳥谷は耳を疑うような反応を示した。全てがあの絵の情景と重なっている。藤山、大雨、赤いコートの少女、そして名前まで。どういうことだ。鳥谷は思考を巡らせた。

「あの婚約指輪にあった英文字はブランド名ではなく、Junichi,Manami,Shizukuということか」

「確か鳥谷さんが出会った第一発見者の赤いコートを着た女の子の名前も雫ではなかったですか? こんな偶然あるのでしょうか」

鳥谷が鼻を触る仕草をすると深瀬は不思議そうに訊いた。

「何か匂いますか、この場所で」

その言葉を聞き捨てるかのように鳥谷は質問を続ける。

「遺体の状況や腐敗についてはどうだ」

「ええ、土の成分については鳥谷さんの推理通りでした。この藤山は土の乾燥が激しく微生物などの繁殖が少ないです。ですが遺体については昨夜から今朝にかけて死亡したものと見られています。

科捜研による司法解剖の結果、最後の食事が三十六時間前に行われていることがわかりました。つまり失踪して三ヶ月、久原真波さんは生きていて、どこかで身をひそめていた、もしくは」

そう深瀬は言葉を急いだ。鳥谷も口髭を触ると声を発した。

「監禁されていたのかもしれないな。あの蔵で。連続殺人鬼の犯人が身を潜めていたのではなく、久原真波は犯人によって自由を奪われ監禁されていた」