兄の事故死への疑問

滑走路に車輪が下りたとき、その思いも忘れ、ただ早く家に帰り着きたいと、それだけになった。到着ロビーに出たとき、大勢の人が集まっていた。

「放っておいて欲しいのに」「声を掛けないで」と思っているのに、腕をつかまれ、マイクを突きつけられた。「日を改めて」とだけ言って、両親とタクシーに乗り込んだ。

やっと家にたどり着いたとき、チーム半井のメンバーから電話が入った。

「ご愁傷様でした。大変だったわね。お父さんもお母さんも、愛莉がいるから助かっているわね。救われていると思う」

「ご心配おかけしました」

「多分、愛莉を頼りにしていると思うから、しっかりとね」

愛莉は優しいねぎらいの言葉を聞いて、それまで抑えていた涙があふれ出た。張り詰めていたものが一気に崩れてしまった。

愛莉が泣きやむのを待って、話は続いた。「ところで、ADAMSに予定の変更があったときには居場所情報の変更を入力しなければいけないことを覚えていた?」

「はっ?」

不意を突かれた。頭の中に全くなかった話が出てきた。

「やっぱり。愛莉はRTPAでしょ。世界中どこにいても、二十四時間、三百六十五日、自分の居場所をADAMSに情報提供する必要があるでしょ。

変更があるときには、居場所情報の変更について、必ず情報管理システムのADAMSに入力しておかなくちゃ。泊まるところ、練習するところ、試合があるところ。本来なら、今はまだスイスにいるはずでしょ。合宿継続中のはずよね。登録上はそうなっているはずよね。

でも、実際には日本にいるのだから、WebシステムのADAMSを使って、居場所が変わりましたって、更新しなくちゃ」

言われればそうだったと、思い出してきた。

「忘れていたわ」