【前回の記事を読む】不可解な兄の死。事故死に納得できず、司法解剖を再び試みる……。その結果にますます疑問を抱いた

兄の事故死への疑問

「何かがおかしいと思わないか?」

とミシェルから水泳連盟を通して連絡があったのは、合宿中のある日のことだった。知らない人からの必要のない声が耳に入らないように、できるだけFacebookなどには触れないようにしているので、そちらからは誰も連絡できない。それでも、何とか連絡を取ろうとしてくれたようだ。

ミシェルとは細かなニュアンスまで話をしたい、そう思って、日本語とイタリア語の翻訳ソフト付き動画に切り替えた。

短く刈られた栗色の髪の精悍な青年がそこにいた。麗央から送られてきた写真は、パドックだったり家の中だったりいろいろだったが、どれもニコニコとして、楽しげだった。顔全体をくしゃくしゃにして笑っている写真もあった。

スマホに映し出されたその顔は確かに麗央と笑い合っていた男の顔だが、目が笑っていない。非常に厳しい目をしている。鼻筋の通った顔の一番下、口はやや薄めの唇をへの字に結び、口角が下がり、怒りを含んでいる。画面の下にわずかに見える、ストロンボリ島から二千メートルの海の底を覗き込むような果てしなく深いブルーのTシャツには皺一つなく、ミシェルの厳しい顔をいやが上にも厳しく見せている。