【前回の記事を読む】兄の死のカギはブレーキ……? 同じような事故に遭ったベテランレーサーの話を聞いてますます疑惑が深まる

兄の事故死への疑問

「例えば、一般車両では、時速三百キロメートル以上のスピードを出すエンジンの性能は求められない。しかし、F1ではそれが普通のスピードだ。そうすると三百キロのスピードでも安定してハンドルを操作することが求められる。

F1のマシンは、もともとカーブを切るとき少しカーブの内側に寄るオーバーステアを起こしやすい。カーブがより強くなるのでインに寄りすぎたコースを取ろうとした場合、カーブがきつくなりすぎて、アクセルを緩めたりするとリアが浮いて、スナップオーバーステアを起こすことがある。

また、F1のマシンではタイヤの消耗が激しい。必然的に削り取られたタイヤは路面に付着する。皆が何周もした後の路面はマットになる。あるいはタイヤの大きなかけらが落ち、ハンドルを取られることがある。事実、それで事故も起きている。

こういうとき、レーサーの腕はもちろん必要だが、ハンドルの性能も求められる。時速三百キロメートルで走るということは、そのスピードを一、二秒で停車させるブレーキの性能が求められるということだ。7Gに耐えるボディーやシート、シートベルトが求められる。

一般の車のシートベルトは三点で固定されているが、レーシングカーは七点で固定されている。一般の車ではこれらの性能は求められない。

その一方、一般の車には大量生産ができ、廉価であることが求められる。燃費の良さも求められる。一部の特殊な場合を省いて、これはとても大切なことだ。しかし、F1の車両に限らず、レース用車両というものにはそんなことは求められない」