ミシェルには車に対する熱い思いがあるのだろう。話が止まらない。

「ごめんなさい。ちょっと待ってね。スナップオーバーなんとかって何なの? 路面がマットって、タイヤのかけらってどういうことなの?」

「市販車はハンドルの角度よりまっすぐに走ろうとする傾向がある。これがアンダーステア。それに反して、レーシングカーなどはハンドルの角度より強く曲がろうとする傾向がある。これがオーバーステア。

もともとオーバーステアの傾向にある車がカーブでアクセルを急にオフにしてしまうと車のリアが滑って、さらに内に寄ってしまうことがある。これがスナップオーバーステア。簡単に言うとそういうこと。

一方で、車はタイヤが支えているわけで、ゴムでできたタイヤが猛スピードで走ったり、急ブレーキをかけたりすると、おろし金でタイヤを削っているようなものだから、削り取られたタイヤのかけらが、路面に付着して、路面の性質が変わっていく。それをマットになるという。

このとき、タイヤがごそっと欠け落ちることもある。後続車が欠け落ちたものを踏んで跳ね上げたり、後方に飛ばして事故になるときもある。車が高速で走るということは、常にタイヤがいたみ、路面が変化するということだ。高速で走るときには常にこの可能性を頭に入れておかなければいけない。その極端な例がF1だ」

車に興味がない愛莉にはついていけない。愛莉は話を事故のことに戻して欲しいと思った。

「確かに。でも一般の車が、高速道路で事故を起こしているって言ってなかったですか?」

さりげなく話題を変えた。