「今、脱炭素、SDGs、その他諸々の問題が絡んで、世界の超お金持ちが買うような、家が何軒も建つような値段の超高級車に、F1で培われた技術が一部導入されている。

今、環境という言葉が一つのキーワードだから、一般車両もそちらに舵を切り始めている。でも、まずはシート一つに何百万もの金を出しても厭わない人たちをターゲットにしている。ブレーキもその一つで、成型しやすく、軽量で高性能のブレーキを使用する動きがある」

そういえば、事故を起こした一般車両は全て超高級車ばかりだと聞いた覚えがある。愛莉の頭の中でも、一連の事故が一つにつながりかけてきた。

「調べる手立てはあるの?」

「私にはどうすればいいのかまでは分からない。しかし、もっと大きな問題が生じる前に、会社に根本原因を調査させて未然に防ぐことが、事故を起こした者の責務ではないかと思っている。亡くなった半井麗央の妹でもあり、水泳選手として名前のある半井愛莉にもこれに賛同して欲しいし、調査要請をするためにイタリアまで来て欲しい」

と言う。愛莉は残っていたクグロフと紅茶を口に押し込んだ。

 

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