【前回記事を読む】優れた中小企業が、下請けとして安価に叩かれる現状――企業価値を認めさせるためのヒントは町工場界隈の“仲間回し”にあった。

第五章 我々は、なにを学び、どこへ行くのか

「これでまた、飛び出したい若手がどんどん出てくるかな」

世耕さんのグループ内にある商社は、いまや事業投資会社の様相を帯びている。自身のプランに自社から資金を調達して社内起業する、イントレプレナーもいる。

可能性のあるスタートアップを見つけ出し、投資や顧客紹介によって事業を軌道に乗せるために、そこへ経営職として出向していく者もいる。そもそもいま就職してくる若者は、定年まで企業に居つく前提で入社しない(定年制が将来あるかどうかもわからないが)。

特に商社の場合、5年ほど実地で勉強して、自立する力を磨くために就職を希望するひとが多いのかもしれない。

「そうなると、本業からどんどん、人財がいなくなってしまいますね」

「私は、それでいいと思っているんです。500ぐらいに小分かれした事業体になっても構わないですよ。なかには個人事業主のような立場のひとがいたり。もし、スピンアウトしても、OBとしてつながってくれたりね。そのうち、グループの中にNPOがあっても面白いな」

大きな国や大きな企業が、必要以上に強欲になると、人間をつまらなくする。もう、みんながわかっていることじゃないですか。規模のチカラと生産性を追い求めてきた大企業は、そこでひとが仕事を愛せるかどうか、未来の人財にとって魅力的な成長の場所になれるかどうか、根本から考え直さなければいけない時代だと思います。

「ふつう、企業の経営者は、大きな本体中心に成長するデザインを考えませんか?」

「もう、真ん中が官僚的にコントロールする時代じゃないでしょう。それに、いまのドメインが今後も主軸であるとは限りません。

100億円の柱は10億円の事業が10件に置き換わってもいいですし、そうした中からゆっくり1000億に育つものも出てくるのではないか。スケールを過剰に目的化せず、もっと時間をゆるやかに考える面もないと、技術基盤も組織風土も、熟成しません」

「500の事業体の管理中枢は、どうなりますか?」

「私はAIに期待しています。市場分析やタスク管理などへの導入を進めながら、経営の中核にもAIを実装する流れが本格化するでしょう。

経営戦略スキルは、桐の箱にでも入ったビジネス知識の頂点のようにみなされていますが、実は、AIが最も扱いやすい情報領域のひとつです。いずれ、コモディティ化しますよ」

AIは、500のグループ事業を、人間よりフェアに、丁寧に運営できるんじゃないかな。戦略のジャッジは500人のリーダーが交代で組み合いながら……古代ギリシャの民会とか、身近なところでは、商店会の寄合いのようになれば面白いです。

アリストテレスは、ギリシャの都市国家は人口5040人ぐらいが理想的だと言っていたそうですよ……40人って、端数が細かいな。まぁ、会社もあんまり大きくなっちゃあ、全体が見えなくなるんですよ。人間は、見えにくいところを軽んじて考えます。AIは、それをしない。

「社会インフラを整備したり、宇宙へ進出するような、大きな仕事はどうでしょう?」

「自前にこだわらず、社内外グループのジョイントベンチャーと考えれば、いいんじゃないでしょうか。規模に合わせて、適財が適所にその都度集まればいい。逆に、いつも大仕事ばかり請け負おうとすると、大きな管理組織を常に維持しなければならない。そのうち、派閥ができたり、真ん中が硬直化するんです」