AIが急速に、そしてディープに学びを進めています
――人間は、なにをディープに学ぶべきでしょう?

序 ロスト・イン・トランスフォーメーション

DX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、PX(プロセス・トランスフォーメーション)、EX(エクスペリエンス・トランスフォーメーション)……。

いま、私たちは、社会創生から業務進行まで〈大転換〉の中で働いています。転換を促すため新しい学びも、企業や教育機関によって、さまざまに提供されています。

ところで、AIの活用を含め、新たなビジネス・スキルを次々と習得していけば、私たちは本当に希望あふれる未来へ向かえるのでしょうか。

このまま働いていて、達成感は上がるのか。変化の中に、空疎(ロスト)が潜んでいないだろうか。

激動の中、毎日の疾走を少しゆるめ、内心に澱んだ〈働くモヤモヤ〉の根元を確かめてみませんか?

本書は、事業開発プロジェクトや創造的人材育成のファシリテーターを務める著者が見聞した、時代と向き合うビジネスパーソンたちのさまざまな想いを、ひとつの物語に織り込んだドラマです。

客観的論説ではなく、人間の気持ちの視座から描くことで、既存のビジネス書籍とは趣の違うフィクション・ストーリーに構成してみました。

主な設定は、市井のひとびとのスモールトーク(雑談、交歓)です。大きな成功体験を誇るわけでもなく、従来通りのルーティンにしがみついているつもりもない。時代転換の中で、働き学ぶことへの期待と不安に揺れる、多くの皆さんと同じ目線の職業人たちが、会話劇をくりひろげます。

スモールトークには、身のまわりの出来事や社会常識と共に、業務内では言い出しにくい心の生声、さらに辛辣な批評なども入り交じり、ただし、それらはたいてい、笑いや寛容に包まれます。

人間関係がフラットな会話は、分析レポートやアジェンダのある会議とは違い、発想の拡散と収束を自由に繰り返し、ときに非論理的で、しばしば異質な気づきの苗床となります。

それは、ドライなビジネス思考をはずれて、ヒューマニティ(人間ならではの知性や感受性)を蘇生するコミュニケーションです。

物語に描いたのは、答えではなく、これからのビジネスパーソンが本質的に考えるべきイシューを探るための素材です。お読みになるみなさんがこの雑談仲間に入り込み、リアルと妄想が交錯する言葉の中から、豊かに働くためのキッカケを、ひとつでも多く見つけていただけると幸いです。

ようこそ。私たちの〈溜まり場〉へ――