【シーン設定】

都心からすこし南へ外れた街に、そのバー&カフェはある。夕立の降る前には、かすかな海の香が

風に混じり、天気の先を知らせるような街だ。

私鉄の小さな駅舎を出ると、ハナミズキの街路樹がつづく。かつて短い商店街だった区道は再開発され、いまは新しい戸建てが並ぶ。駅から5分ほど歩くと、戸建ての先に、古いグレーのビルが見えてくる。小ぶりな3階建ての路面には、右手に新装の美容院、そして左手にある、少し褪せた濃紺のスチールドアが、その店に客を迎える。

現在のオーナーは、バブル最後期に建てられた店を9年前に入手した。打ちっ放しのコンクリート壁、チーク古材のL字カウンター、天井吊りのBOSEスピーカーシステムと32インチモニター。

水まわりは新しくしたが、内装はほとんど変えず、メンテナンスして使っている。店のスペースを占めていたビリヤード台だけは、南欧の台所にありそうな、大きくて素朴なアンティークテーブルに置き換えられた。

店の名前は、〈Patina(パティーナ)〉という。

 

 

次回更新は6月25日(水)、11時の予定です。

 

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