「それはもう、人間の仕事じゃなくてよいと?」
「ええ。管理業務のテクノロジーへの委託がすすめば、発想と開発と決断が、人間仕事の主な領域となります。
もちろん、テクノロジーは注意深く扱う必要がありますけど、私たちは、経済効率のオペレーション奴隷になって働くことから、かなり変われると思います」
「シリコンバレーは、はじめのうち、寄合いコミュニティのような感じがしました」
「そんな気がしますね。投資家が近所のナパ・バレーでワインを飲んでいるうちに、面白いアイデアと出会う。一緒にやろうか。経営の精度を上げるなら、その道のプロを連れてくるよ。
そうやって、成功も失敗もどんどん生み出す集散の活力があったんでしょう。稟議なんて、書かなかったんじゃないかな。企業の究極の理想は、ひとが出会うコミュニティになることかもしれないです」
世耕さんは、大きな組織を受け継いだ経営者ではない。だから、ネットワークとして縦横無尽に相互作用する、中枢が希薄な企業観を思い描くことに抵抗がないのだろう。
お煎餅は、酒の友になるんですね。揚げおかきをつまみながら、オンタイは言葉を継いだ。
「西洋の組織は、その宗教に似ていませんか。カリスマヒーローが教祖で、布教の販管セクションが教会。そしてブランドファンという信者が垂直に並ぶわけです。ところが能美さん。日本も構造的には同じなんですが……我々の歴史の中には、教会と違う、神社がありますよね。
神社は真ん中に、シンボルではなく〈空〉があります。私たちが拝むご神鏡には、こちら側の現場の風景が映っているんですよ。つまり、民の中に八百万(やおよろず)の小さな神が隠れていますよと、リフレクトしている。これからの経営者は、教祖ではなく、神主のほうがいいんじゃないでしょうか。
こう、お祓い棒を振ってね、あなたも~豊穣に感謝する~八百万の働き者である~。そうやって、新たな精霊を招いていくんです。西洋のモデルでないほうが、どうも先進的な気がします」
手元の箸を握って振る世耕さんは、社長室で後進に祝詞をとなえていたのかもしれない。「分業化されたジョブをひとびとに分配するのも、事業者としては常識的な考え方ですが、世の中に善き事業を提供できる八百万を育むことが、もっと重要になってくるような気がします。
そしてね、その事業コミュニティのインフラには、多様なタレントが生涯にわたって学び合いに来る、ふ卵器のような場所が必要だと思うんです」
「……僕のお手伝いする、学び舎づくりの実験ですね」
次回更新は3月18日(水)、11時の予定です。
👉『これからの「優秀」って、なんだろう?』連載記事一覧はこちら