「私には車のことは何も分からない。ただ、兄はああいうところで、あんなミスをする人ではないと言えます」
町中の家の窓という窓が、ペチュニアやゼラニウムの赤に彩られた街道を眺める喫茶店の中で愛莉はそう答えた。
実際、愛莉には車のことはよく分からない。誰かが運転してくれて、走って、止まってくれればよいだけだ。ただの移動手段で、それ以上のものではない。
しかし、ミシェルの話を聞いて、事故直後に感じていた喉の奥の引っ掛かりがさらに大きくなったことは否めない。この引っ掛かりを解消する術があるなら、何とかしたいと思うが、愛莉にはどうしたらいいのか分からない。
無意識にクグロフを一口かじった。愛莉の周りの空気が急に粘度を増した。吸い込んだ空気は胸元辺りにたまったまま肺まで流れてこない。呼吸をすることを忘れてしまったかのように、ただじっとしていた。眉と眉の間辺りに熱の塊が渦を巻き始めた。
「現場の整備不良などでは済まされない何か根本的なことがあるのではないか」と画面のミシェルが言った。
「根本的?」
雲をつかむような話だ。