鼠たちのカクメイ
承
そこへ洗心洞に寄宿する書生が入って来て、意義たちの到着を告げた。
「先生。表に渡辺良左衛門という方がお見えです」
「おう。帰ったか」
玄関に出てみると、懐かしい顔と見知らぬ顔があった。
「ご苦労やったな、おき……ああ、渡辺やったか。ほんで、その坊主は?」
「まあ、ゆえあって私の養子ということに」
百姓という出自ではこれからの行動に支障があるというので、カイを意義の養子ということにしていたのだ。
「わ、わ、渡辺……カイって言います」
慣れぬ苗字を口にして、カイは照れ臭そうにぺこりと頭を下げた。
「ほう。お主が養子をとるとはな。ほんで、どやった? お江戸のお偉い様たちは」
四人は連れ立って、歩きながら話をした。訓練場の河原には馬と材木に偽装した銅製の大砲が置いてある。金を払った平八郎にも確認してもらわなければならない。
「ええ。相良の者に聞いたのですが、残念ながら」
意義は江戸で、相良藩の藩邸を訪ねた。そこに駐在する知己を通して、幕府内の情報を得ていたのだ。さらに大坂に戻る途上で文も受け取っていた。
「その文によれば、飢饉の件は閣議にも上らず。あろうことか将軍代替わりの儀を強行しようとしている、とのことでした」
「まあ暗愚の為政者とはいえ、今が危機的状況なことは薄々気づいとるやろ。代替わりという盛大なお祭りでもブチ上げれば、世間の目は逸らせると考えとるのかもしれんな」
平八郎は深いため息をついた。四人が広場にさしかかったとき、豆が爆ぜるような音が連続して鳴った。一斉射撃の訓練らしい。格之助に代わって指揮を執っているのは、塾頭でもある宇津木静区という男だ。