ディッキーに成りすます
リプリーの立身出世への道は、ディッキーと出会ったために軌道修正を余儀なくされた。
ディッキーをアメリカへ連れて帰るというミッションは案の定失敗した。パトロンのハーバート・グリーンリーフからクビの宣告がきた。
ディッキーの家に居候させてもらっていたが、ディッキーのガールフレンドのマージの妬み(なぜ彼はあなたに四六時中くっついているの? リプリーはホモ(註4)じゃないの?)を買い、ディッキーの態度が急変した。ディッキーとの別れが決定的となり、二人で行く最後の旅行になると思われたサンレモ行きの列車の中でリプリーは殺意を固め、すばらしいことを思いついた。
(註3)菅山真次『「就社」社会の誕生―ホワイトカラーからブルーカラーへ―』名古屋大学出版会(二〇一一)。八三頁。
(註4)『役人の生理学』の訳者鹿島茂氏は同書の解説で、同書で描かれた一九世紀フランス社会の役人は、現代のサラリーマンの原型だと指摘している。
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