カラスさんは、イノシシさん親子が、栃の実のようなものを旺盛に食っているところを見つけました。
声を掛けるのが怖いくらい唸り声を出しながら、栃の実を探してむさぼっています。
カラスさんは困って、羽音だけを意識的にさせて注意を引きました。
すると、イノシシさんも気が付いて話します。
「今日は何か用かね。今は食うのに集中してるから、邪魔はしないでおくれ」
カラスさんは、これは聞けないかもしれないと思案顔です。また嘘を思い付きます。
「イノシシさんは、森の中の他の生き物のことをよく知っているよね。最近、キツネさんを見掛けないけど、どうしたんだい。どこかで怪我でもしてないか心配になってね」カラスさんは、随分な出任せを考えたものです。イノシシさんがどう答えるかが楽しみで、羽をバタつかせてドキドキしています。
イノシシさんが冷静に答えます。
「昨日の夕方に、おいらとすれ違ったよ。田んぼの方から山に帰って来たのだろう。稲刈りが済むと、田んぼの辺りもネズミやら蛇やら生き物が少なくなるからね。まだ田んぼと山を往復しているはずだから、夕方見つけてごらん」
カラスさんは、イノシシさんのあまりにも真面目な回答に、大人しくなってしまいました。
そして、御礼を言うつもりが、つい余計なことを言ってしまいました。