品川の問屋場で発注したものだが現金で先払いしておいたので荷役たちはおらず、その代わりに馬が車に繋がれていた。それとは別の荷であるふたつの木箱も置き配されていた。こちらは武器商人から買ったものだ。
中を改めると、注文通り藁に紛れさせた青銅製の大砲が一門ずつ入っている。オランダから密輸したフランキ砲だ。欧米では既に旧式の余剰武器のため、長崎経由で一門あたり二十両ほどで手に入る。材木運搬に偽装して、箱根の関所を抜けるつもりだ。入り鉄砲ならぬ出鉄砲か。箱には皮袋がひとつ添えてあった。
(ほう。これも見つけてくれたか)
中を確認してから皮袋を自分の帯に差す。ひとり作業なので少し手間取り、廃寺に戻る頃には陽が沈みかけていた。
入口の朽ち果てた山門の前に野良犬がたむろしている。何かを争って食っているようだ。犬たちを石で追い払ったあとに意義が見つけたものは真新しい遺体だった。どうやら自分がいない間に、依頼主はあの少年を斬りに来て返り討ちに遭ったとみえる。だが死体を改めてみると、刀傷がない。あるのは首に刺さった意義にも投げた手裏剣、それに側頭部に撲り痕が見受けられる。
(なんだ。刀は使わなかったか)
あるいは使えぬ理由があったか。さらに衣服を探ってみる。継裃の懐に妙なものを見つけた。十手。
(まずいな)
その意味を知る。俺を尾行していたのは恐らくは大坂の東か西の奉行関係者。十手を持てるのは同心以上だ(時代劇のように、岡っ引きレベルが持つことはない)。同心が動くとすれば、我々は既に内偵を受けている。
さらには……思いめぐらしかけた時、寺の裏の竹林から竹を削るような音が聞こえてきた。行ってみると少年がいた。小刀を右腰に差して竹の前に立っている。気合いとともに順手で小刀を抜き、竹を切ろうとするが跳ね返される。
「くそ。鈍刀じゃねえかよ。おっさん」
【前回記事を読む】尾行の気配に追手をおびき寄せて始末しようと仕掛けさせると十代半ばの少年のようで…
次回更新は12月28日(土)、11時の予定です。
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