鼠たちのカクメイ
起
不満を呟くそのうしろから声をかける。
「鈍刀とはご挨拶だな。名刀とは言わぬが、そこそこの……」
意義は小刀を握る左の手を見てから、自分の見落としに気づいた。
「そうか、うっかりしていたな。貸してみろ」
少年から小刀を取り上げ、まずは正対に構える。
「刀は大体、右遣いが斬るようにできているんだ」
決してなまくらでないことを証明するように、青竹を切ってみせた。胡瓜か大根を包丁で捌くような軽さと切り口に少年は少しだけ安心した。この腕前ならオイラの手首も成仏したことだろう。
「左なら、こうだな」
くるりと回して刀を正対から逆手に持ち変える。そして今度は逆手で引くようにして竹をすっぱり切って見せた。唖然とした少年が落ちた笹竹を睨みながら言う。
「あのなあ、先に教えとけよ。返り討ちするはずが、返り返り討ちになるとこだったんだぜ。おっさん」
「何があった?」
少年は不満げに事情を説明した。
「オイラが寺の中で寝てたらよ、外から葉っぱを踏む音がしたんだよ。だから急いで茣蓙ん中に鍋や桶をしのばせて、戸口の裏に隠れて待ち伏せたわけさ」
「うむ。悪くない対処だ。おまえ、策士だな」
「茶化すなよ。で、やつが入ってきて茣蓙に刀を突き立てた。こっちもここぞとばかりにこいつを振り下ろした。ところがだ。頭に当たった刃が跳ね返ってきやがった」
「斬れなかったわけだな?」
「しょうがなく奴が頭を押さえて転げまわってる間に、手裏剣を取り出して喉にグサリ。野郎は寺を飛び出して逃げたが、止めを刺す前におっ死んだっつうわけさ」
話を聞き、ドタバタ劇を想像しながら意義は大笑いした。
「笑いごとかよ!」