鼠たちのカクメイ

「支度金を工面なされよ。勘定奉行殿」

「しかして飢饉の煽りで租税は減る一方であり、工面となれば冥加金を復活させねばならぬかと。ひいては賂(まいない)にも頼らざるを……」

老中が勘定奉行に釘を刺す。

「それはなりませぬ。家慶様が公儀におなりあそばすその祝いの席で、賂などという不浄の金を使えば不敬となり申す。断じてなりませぬぞ」

「されば、いかように」

当代きっての切れ者は頭を巡らせた。

(例の件、良弼を急がせるとするか)

  

箱根関所に続く街道。馬上の意義が車の後につくカイに言う。

「そろそろ関所だ。おまえは何も喋るな、いいな」

「わかってるよ」

関所に到着すると、意義は馬を下りて懐から『大坂町奉行通行手形』を取り出して、番人に提示した。

「荷は材木ですな。用途は何でありましょう」

番人は訝るでもなく、ただ事務的に訊いてきた。

「町奉行の門が朽ちておりまして、お奉行が江戸から取り寄せよ、と」

「何故、江戸の材木を?」

「お奉行が江戸赴任中に日参した、日枝神社の神木だそうです」

ことさら奉行の名をちらつかせた。箱根関所には番士と定番人が数名常駐している。彼らは手形を回し見して、最後は現場の最高責任者・横目付の手に渡った。