意義は小刀を自分の脇差に戻し「おまえはやはり、飛び道具の方が向いているのかな」と、先程まで遺体の首にあった手裏剣を返してやる。
「ケッ。下人に武士の魂は使いこなせねえってか? ああ、そうかよ。じゃあせいぜい手裏剣の腕でも磨かせてもらいますわ」
「いや。もっといい飛び道具があるぞ」
意義は帯に差した革の袋を取り出した。革の袋はホルダーで、そこから金属製の鈍く光るものを抜いた。アメリカのアレン社が西部開拓時代(1830年代)に普及させたペッパーボックス・ピストル、つまり拳銃だった。
「短筒だ。これなら片手で撃てる」
少年の左手に握らせた。ズシリと重い。
「な、なんでこんなものを」
手に入れることができるのか? 自分にくれるのか?
「今日からおまえの雇い主は俺だ。その道具で俺を守ってもらう。それと……」
今度は預かっていた巾着に二十両ほど入れて渡した。
「一世一代の刺客だ。小僧、俺と一緒に大坂に参れ」
「刺客?」
「うむ。相手は数百人だ」
ああ。イカれたおっさんだったか、という呆れ顔。
「怖いなら断ってもいいぞ。小僧」
イカれてる上に腹が立つ。
「小僧小僧って。名前で呼べよ、おっさん」
「そうか。互いに名乗っていなかったな。俺の名は田沼意義。おまえは?」
言い澱んだ。名前? ええっと、確か。
「……カイだよ」
意義が首をひねる。苗字なのか名なのか。甲斐の国の出なのだろうか。
「どう書く」
「書くって……書いたことねえよ」
「……そうか。おまえは少し先生に指導を受けた方がよさそうだな」
いい土産ができた、と意義は楽しそうに笑った。