第三章 病気との付き合い方

手術後―医者との面談

第一問は、結腸癌のステージごとの五年生存率について。アメリカの癌協会が発表しているものを見せて、日本も同じ傾向があるかという質問。前回もそうだったが、どうもこの医者は横文字にコンプレックスとまではいかないが、感じやすいという印象を持っていたので、わざわざ英語の文献を探してきた。

医者の答えは、日本はもっとずっと成績がいいですよ。一つには手術の技術が優れているからでしょう。これは私が期待していた予想通り。医者に花を持たせ、こちらの思惑通り、相手にちょっと得意気ないいスタートを切らせることができた。俗語で、“のせる”という。要するに、相手に警戒心を抱かせないでガードを低くさせるわけである。

医者のこれまでの提案によると、抗癌剤治療は約半年が一区切りである。必要によっては、それをもう半年繰り返す。私は、それぞれの治療法について総経費を計算しておいて、その結果を見せた。

分子標的薬についても聞いてみた。しかし、大腸癌に分子標的薬を使えるのは治癒切除不能な進行・再発の場合で、私の場合のように予防的使用は認められていないということであった。

これで、相手の提案について十分検討したことはわかってもらえたと思うので、今度はこちらの希望を述べる番である。前置きとして、「この紋所が目に入らぬか!」と、水戸黄門の印籠を出すことにした。この医者の上司の外科部長から手術前にもらっていた手紙の一節(下に掲げる)である。

【外科部長への質問】

ホームページには、大腸癌ではありませんが癌治療方針のアルゴリズムと題して、流れ図がいくつか掲載されています。こういう場合は、こういう治療法とあらかじめ決まったレールが敷かれているような印象を受けます。患者自身の希望、もっと突き詰めると人生哲学が反映される余地はないのでしょうか。治療法の複数の選択肢について、患者が納得のいくまで主治医の先生にご相談することはできますか。

【外科部長の回答】

治療法はご希望があれば、ご本人の選択で行います。しかし、大腸癌はまず、切除、そして、進行していれば、抗癌剤は世界的にも一致した考え方です。治療法のバリエーションはあまりないのです。しかし、ご本人の希望を尊重します。