不幸を免れている者の理屈ではないか。
あのときに比べれば、ずっとましな気分だ。アニタはナプキンを濡らして、カーシャの口の端についたココアと頬についたままのミートソースの汚れを拭き取った。
「これじゃ何食べたか丸わかりじゃないか。お前はねカーシャ、自分じゃちっとも気づいていないだろうけど、とってもきれいな顔をしているんだよ。こう言っちゃ悪いけど、お前には宝の持ち腐れだよ」
汚れを拭いたついでに額に垂れた髪をかきあげてみた。均整の取れた輪郭が彼の顔を凛々しく見せる。少女から女へ花開く美しさがあるとすれば、少年が男に移り変わるころの美はそれに勝るものがある。この両性具有の魅力は、ほんの束の間に与えられた究極の美しさだ。
それが今この子のものだというのに、本人にはなんの値打ちもないなんてと、アニタは不憫(ふびん)そうにため息をついた。
「そうだ。もう一度こっちへきてごらん、カーシャ」
アニタはふと思いついて、また床下の貯蔵庫を覗かせた。ニンニクの籠を取りのけて、中に納まっている金の板がもっとよく見えるようにしてやった。
「夫が稼いだお金と父から受け継いだお金を、私はこうして持っているんだよ。お前には見られてしまったけど、内緒だよ。誰にも言わないでおくれね。言ったら私は怖いよ。村のみんなとちがって、私はカーシャだからって容赦(ようしゃ)しないからね」
【前回の記事を読む】「チョコレート? お前にはこれがチョコレートに見えるのかい。これはね…」秘密の一端を見られたが、この子なら…
次回更新は11月13日(水)、21時の予定です。