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しかし本当に肝を潰したのはこの家の女主人の方だ。いきなり背後から、しかもどうにも抵抗できない姿勢でいるところへ侵入者が声をかけたのだ。胸のまん中でドクンと脈打つと血の気がさっと引いた。恐る恐る体を起こし、ふりかえってカーシャの姿を見るまで彼女は生きた心地もしなかった。

ほっとすると溶けるように体が緩み、𠮟りとばしてやりたくても声も出なかった。

「何持ってるの」相手が落ち着けばカーシャは平気だ。アニタが大急ぎで床下の木箱に隠したものを彼は目敏(めざと)く見つけた。

「チョコレート、いっぱい持ってるの」

「チョコレート?」

アニタの頬は微(かす)かに動いた。

「えらいものを見られたと思ったけど、お前にはこれがチョコレートに見えるのかい」

気の毒そうな目を向けながらも、アニタの口元はおかしそうにほころんだ。ふだんにこりともしない彼女が、こみあげる笑いをこらえている。アニタは床下からもう一度、さっき手にしていたものを取り出した。

「銀紙で包んだチョコレートのようだけど、これは金色をしてるだろ。持ってごらん」