カーシャの手に握らせる。大きさは、なるほど板状のチョコレートのようだが、これはずっしりとした重みがある。刻印された文字や番号が浮かんでいた。

「これはね、お金なんだよ、カーシャ」

お金ならカーシャも知っている。食料品店に一人で買い物にいくこともできるのだ。カーシャは首をふって笑った。

「ちがうよ。こんなのお金じゃないよ」

「いいや。これがお金なんだよ。紙のお金は、政府がちゃんとしてなきゃ値打ちがなくなってしまうんだよ。お前は見たことがないだろうけど、これが本当のお金さ」

困ったように首をかしげるカーシャを見て、アニタはすっかり安心した。秘密の一端を見られてしまったが、この子なら心配はいらない。

アニタはカーシャの手から金(きん)を取り返すと、今度はわざわざ見せびらかすようにそれを木箱に納めた。

「見たんだから、このお金のことも話してあげるよ」

アニタはカーシャの反応など聞きもしないで話しはじめた。

「うちの父は、娘なんかじゃなくて、跡を継いでくれる息子がほしかったのよ。お医者をしていたからね」

だから父は街の大学で、苦学している優秀な医学生を見つけてきて、学費を支払い生活の面倒も見てやった。そうして、いずれ村に連れてきて診療所を継がせる……それが父の描いた夢だったのだ。だが、それが着々と見込みどおりの展開になっていくと、父はもっと多くを望むようになった。